潮間帯研究
潮間帯は陸域と水域のはざまとして海洋環境の中でも特殊な性格を持ち、アプローチの容易さと相まって、海洋生態研究の中でも重要な位置を占めてきた。天草臨海実験所周辺にはきわめてバラエティーに富んだ潮間帯環境が存在し、現在色々な研究が進められている。
天草の転石地潮間帯は巻貝類を主とする特異な群集構成を示し、世界的に見ても興味深い系を作っている。肉食性巻貝類の近縁2種 Japeuthria ferrea と J. cingulata は同じ食物資源を利用しながらも、競争力・成長特性に相反する性向を示し、微妙なメカニズムに依って共存していることが解明された。また、Monodonta, Nipponacmea など複数の藻食性巻貝類の比較生態が、行動・分布・資源利用パターンなどの解析を通して調べられている。
岩礁潮間帯ではフジツボ類の個体群動態に関する長期的調査が続けられており、固着生物群集に共通な「定着過程の変動性」を浮きぼりにするデータが得られつつある。また、タイドプールの魚類群集に関する研究では、種間の行動および資源利用の時空間的パターンの違いが見い出され、さらに群集構造の地理的変異性について画期的な成果が得られている。
潮間帯研究は国内だけでなく、国外、特に南米太平洋岸(エクアドル・ペルー・チリ)で、群集構造の地理的変異と広域的撹乱要因として知られるエルニーニョ現象との関連で調査が進められている。また、インドネシア・スラウェジ島におけるマングローブの空間分布と群集多様性についての研究も行われている。
サンゴ・アマモ群集研究
サンゴ群集は海洋生態系の中でも特に生物多様性が高い系として、また近年の世界的白化現象と相まって注目を浴びている。天草下島南部には100種余りの造礁サンゴ類の生息が確認されており、定着、成長、分布、繁殖生態などを含めて野外調査・実験と室内実験を組み合わせた研究がなされている。また、沖縄のサンゴ礁サンゴ群集と比較することにより、非サンゴ礁域サンゴ群集の特性がわかりつつある。国外ではインドネシアのサンゴ群集の構造と多様性に関する研究が行なわれている。
内湾に発達するアマモ場は3次元的空間構造を作り、また栄養供給源となることでベントス群集にさまざまな影響を与える。アマモ場と非アマモ場の群集比較により、生態的差異に基づいた空間利用の違いが見い出された。
陸水群集研究
分類群的違いを除けば、陸水と浅海環境には類似した群集機能・構造が見られる。例えば河川の石礫底は転石潮間帯と似ており、河川・湖沼の沈水植物帯はサンゴ・アマモ場と似たような構造を持つ。フサモやバイカモなど河川の沈水植物は複雑な空間構造を形作り、動物群集に様々な面で影響を与えている。陸水群集でも特に多様性の高いユスリカ類に関しては、コンピュータシミュレーションと組み合わせた研究により系の蓋然性、種間競争関係の弱さなどが明らかになってきた。現在、河川の底質構造の複雑性とベントス群集の多様性に関する仕事が進められており、また、ロンドン大の研究者と共同で石礫底群集一般の空間分布動態と密度‐体サイズ関係に関する研究を行っている.その結果の一部は米 Science 誌に発表された。また沈水植物付着群集のアバンダンスパターンの解析も進めている。
群集構造論
進化的、生態的側面を含めて群集の共存機構を検討することは、近年問題にされている生物多様性の保全と相まって、きわめて重要なことがらであると言える。当研究室では、様々な群集のパターンを比較することによって、共存機構自体の多様性がつかめるであろう、との観点からデータ収集・解析を進めている。特に、種数の変化に伴って群集のパターンはどう変化するかを検討している。この方面での2000年までの成果は、単行本(参考論文)にまとめられている。 |